マーケティング部門

製薬産業に従事する医師資格者の大部分は、研究開発部門いわゆるR&Dに所属しています。これらの部門と比べて、私ども営業マーケティング部門の業務は、医師としてこれまで行ってきた仕事とは大きく異なり、まさに180度立場を変えた業務内容となります。営業・マーケティングという言葉からわかるように、製品の売り上げを伸ばすことが最大の目的です。したがって科学的な側面とビジネスとしての側面の両方に対する知識と意欲が要求されます。これまでの製薬産業における営業・マーケティング( Medical Marketing )は、自らの投薬によって患者さんを治療したことも、ときには副作用によって苦しめたことも経験したことのない人が、ちょっとした社内研修程度の知識で情報提供を行っていた、と言っても過言ではありません。多くの商品の場合に、売り手は同時に顧客でもあり顧客の考え方が理解できます。例えばテレビやパソコンを売っている人は、自分でも購入または使用したことがあるのが普通です。ところで車を購入しようとして販売店に行き、営業担当者からこの車は加速感がよいとか、ハンドルが安定しているとか、いろいろと言われた挙げ句に、その営業担当者が運転免許を持っていなくて自ら運転したことがない、と知ったらあなたはその車を購入しますか?これまでの製薬業界はそのような販売方法でも良かったのですが、現在のように世界的に通用する新規医薬品の開発販売が会社の命運を握るようになると、できるだけ早くその新しく高いレベルのサイエンスを理解し、顧客に伝えることが重要になります。そのためには医師としてのトレーニングを受け、豊かな臨床経験を持ち、ビジネスマンとしての素養も兼ね備えた人間がベストと言えます。マーケッターは医師としての経験はできませんが、医師がマーケッターの経験をすることは可能だからです。ただし、いくつかの資質が必要となります。私が自分のチームのメンバーを探すときには三つのことを要求します。第一に重要なことは、これまで顧客として頭を下げられていた人間が、頭を下げる側に回るということができるかどうかということです。通常の日本のビジネスではお客様に頭を下げるのは当然ですが、偉い先生のみならず、これまでの自分より大学や学会での地位や研究業績、臨床経験が必ずしも上とは言えない先生に対しても、お客様として立てることができなければなりません。ビジネスマンとしての常識やマナーも当然必要です。お客様のいない職業はこの世に無いという当たり前のことが、医師をしているうちに理解できなくなっている人をしばしば見掛けますが、マーケティングの大原則は顧客満足に尽きます。第2に臨床経験はできれば10年以上が望ましく、基礎研究の経験もないよりはあったほうが良いのですが、もっとも必要とするスキルはプレゼンテーション能力です。これも営業・マーケティングの基本です。大人数の説明会でも一対一の説明でも、いかに自分の情報を分かりやすくかつ印象深く伝えるか、という日本人が最も苦手とし軽視してきた能力が要求されます。第3に現在の終身雇用、年功序列の日本社会では、我々のような中途採用者に充分な給与と仕事のしやすいポストを提供してくれるのは外資系のメーカーということになりますので、英語力も必要でしょう。ただし日本国内でのみ販売する商品ですから、本国と交渉するリーダーはともかくとして全員に必要ではないかもしれません。

さてこれまでの私の話で私どもの活動を御理解いただけたでしょうか。実際の活動内容として、下に2000年6月の平日における私のスケジュールをお示しいたします。学会シーズンにはこの他に外国や日本の学会でのさまざまな活動が加わり、月の半分近くがそれに当てられることもあります。平均すると海外出張は月に1回程度になります。

1日 Y大にて説明会
2日 内勤
5日 S医大I教授に学会のシンポジウムの件で面会
6日 内勤
7日 N大I医師に市販後研究の件で面会
8日 K市薬剤師会にて講演
9日 内勤
12日 休暇
13日 経営会議
14日 K県CVRセンター治険管理担当者に市販後研究の件で面会
15日 営業マーケティング会議
16日 K県保険審査委員研修会にて講演
19日 内勤
20日 H大にて説明会
21日 K県薬剤師会にて講演
22日 内勤
23日 営業、マーケティング、R&D各部長とミーティング
26日―30日 米国本社でミーティングと研修